研究室について.

問題解決知能研究室(Problem-Solving Intelligence Lab, PSI Lab / 古池研究室) は、神奈川大学 工学部 電気電子情報工学科の研究室です。 「ある問題を解いて得た考え方が、次の別の問題にも効く。そんな"問題解決の複利"はどうすれば生じるのか」 を問い続け、工学(人工知能・知識工学・学習分析)と科学(認知科学・教育心理学)を 架橋し、その両輪で研究を進めています。


「教育」ではなく「学習」に注目する

この研究室が対象とするのは、教える側の論理である「教育」よりも、学ぶ側の体験である 「学習」 です。 どんなに優れた教え方を設計しても、最終的に概念を理解し、スキルを獲得するのは学ぶ側の頭の中で起きるプロセスです。そこで何が起きているのかが分からなければ、技術で支援しようにも当て推量になってしまいます。 そこで私たちは、人はどのように新しい概念を理解し、試行錯誤し、スキルを獲得していくのか、そのプロセスそのものを科学的に解明し、技術の力でより豊かにすることを目指しています。

知識が増えることだけが学習ではありません。覚えた知識はその場面でしか使えず、別の問題の前では役に立たないことが多いからです。私たちが設計したいのは、ひとつの問題解決を通じて得た「考え方」や「振り返り方」が、次の新しい問題にも活きるような、 「積み上がる学び」 。一度の学びが次に効いてこそ、学ぶことの投資が報われます。

科学と工学の「交差点」を探る

同じ学習という対象に対して、科学と工学はそれぞれ異なるアプローチをとってきました。

  • 工学(人工知能・知識工学・学習分析): 学習を実際に支援する手段(システム)をつくる。人の認知を忠実に再現することより、効果が出ることを優先します。
  • 科学(認知科学・教育心理学): 人がどう学んでいるかを解明する。学習者の頭の中で起きていることを忠実に理解しようとします。

私たちの研究は、科学そのものでも、工学そのものでもありません。その両方の知見を 統合 し、新しい価値を創造する 学際的研究 です。 科学だけでは「人がどう学ぶか」は分かっても、その理解を学習者の役に立つ形にするところまで届きません。工学だけでは支援するツールは作れても、「なぜそれが効くのか」を説明できず、別の場面にうまく応用できません。両方が揃ってこそ、認知の仕組みを理解した上で学習をより効果的にする技術を設計できます。

単に便利なアプリを作るのではなく、認知科学の知見を工学的にモデル化し、工学的なアプローチで人間の認知を深く理解する。そして、個別のツール開発にとどまらず、多くの場面で応用できる 汎用的な枠組みや基礎理論 を構築することを目指しています。ひとつのアプリを作っただけでは、その場限りで終わってしまうためです。下にある仕組みを理論として取り出しておけば、別の課題や別の分野でも作り直さずに使えます。

もう少し踏み込んで言えば、学習の理論を「実際に動くシステム」として構成する ことが私たちの方法論です。理論が正しければシステムが正しく動き、動かなければ理論のどこに問題があるかが分かります。頭の中だけで考えていると、理論の曖昧さや抜け漏れに気づけません。実際に動かしてみて初めて、それが本当に説明できているのかが確かめられます。この「作ることによって理解する」アプローチが、私たちの研究の土台にあります。

こうした研究の場が、「知的学習支援システム(Intelligent Tutoring Systems)」 と呼ばれる学際的研究分野です。


研究室のスタンス

私たちが研究活動において大切にしている価値観です。

1. 形式化と構成的理解

「なんとなく分かる」を「はっきりと説明できる」状態にすること(形式化)。そして、理論を机上の空論で終わらせず、実際に動くシステムとして作り上げることで理解を深めること(構成的理解)。「なんとなく分かる」までで止めると、それが本当に分かっているのか、思い込みなのかを区別できません。説明できる形にし、動くものとして作ってみて初めて、自分の理解の正しさが試されます。「わかるとできるの間」を埋めるのは、いつだって具体的なアウトプットなのです。

2. 「問題解決の複利」を狙う

その場しのぎの暗記ではなく、一度学んだ知識や考え方が、将来の別の場面でも役に立つ。そんな汎用的な「知恵」の獲得を目指します。一度の学びが次の問題でも効き、その学びがさらに次へとつながっていけば、学んだことは時間とともに積み上がって大きな差になります。これが「複利」と呼ぶゆえんです。私たちが目指すのも、ひとつの研究成果や開発したツールが、分野を超えて他の誰かの役に立つような、広がりのある研究。成果が一回きりで終わらず、他の場面にも効いてこそ、研究に注いだ労力が複利で返ってきます。

3. 失敗の中に「情報」を見る

学習において、間違いや失敗は避けるべきものではありません。というのも、間違いには「どこまで分かっていて、どこから分からなくなったのか」という、次に何を学べばよいかを教えてくれる極めて重要な情報が詰まっているのです。失敗を隠してしまうと、その手がかりごと失ってしまいます。研究も同じで、予期しない結果は、見落としていた仮説への入り口になることが多い。だからこそ、それを面白がり、そこから次の仮説を導き出せる人を歓迎します。

4. 学際的な越境

人工知能、知識工学、学習分析、認知科学、教育心理学。そのほかだって構いません。なぜ分野を越えるのか。「学習」という対象は、ひとつの分野の道具だけでは捉えきれないからです。理解するには科学が要り、支援するには工学が要る。ひとつの分野に閉じこもらず、必要な道具はなんでも使い、組み合わせます。異なる視点を持つメンバーが集まれば、ひとりでは思いつかない組み合わせが生まれます。分野を越えて協力しながら、新しいアイデアを生み出していきましょう。


個別の具体的な研究プロジェクトについては、研究内容のページをご覧ください。